近年、デジタルマーケティングファネルという概念が、マーケティング手法のデジタル化とともに注目されつつあります。「購買プロセスの図式化」であることに変わりはありませんが、従来のマーケティングファネルとは何が違うのでしょうか。
本記事では、デジタルマーケティングファネルの基本的な考え方や具体的な活用方法について詳しく解説します。
目次
デジタルマーケティングファネルとは
マーケティングファネルとは、デジタルマーケティングのプロセスにおける顧客の購買行動を図式化したものです。購買に近づくほどフェーズが狭くなる漏斗のような形をしているために「ファネル(漏斗の意)」と呼ばれます。
近年では「Webマーケティング」が主流となっていますが、デジタルマーケティングではモバイル端末や公式アプリの行動履歴、イベントの反響、来店データなどのリアルデータも分析の対象になります。オムニチャネルに対応したWebマーケティングと考えればわかりやすいでしょう。
デジタルマーケティングファネルのメリットと効果
デジタルマーケティングファネルには、どのようなメリットと効果があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
購買行動の可視化
デジタルマーケティングファネルを活用すれば、見込み客の購買プロセスを可視化して各段階における心理状態を把握できます。課題が発生しているフェーズの特定と改善策を把握できるのは大きなメリットといえるでしょう。
たとえば「比較・検討」のフェーズから「購買」に至る段階で離脱する見込み客が多い場合は、競合他社に流れている可能性を考慮した改善策の立案が必要とわかります。
マーケティング活動の効率化
デジタルマーケティングファネルによって購買行動を可視化できれば、各フェーズにおける最適なマーケティング活動や施策を戦略的に考えられます。
購買行動の多様化によって、各フェーズにおけるニーズは異なってきます。そのため、フェーズごとにアプローチを変えた重点的な施策を検討しなければいけません。
たとえば、アクセス数が多くても問い合わせにつながらない場合は、導線設計や企業のオンラインプレゼンスに問題があると推測できます。検討される施策は「コンテンツの改善」や「認知拡大」になるでしょう。
デジタルマーケティングファネルの種類
デジタルマーケティングファネルは、主に次の3種類に分けられます。
- パーチェスファネル
- インフルエンスファネル
- ダブルファネル
それぞれ詳しく見ていきましょう。
パーチェスファネル
パーチェスファネルとは、商品やサービスの購入に至るまでのプロセスを4つのフェーズで表したモデルです。マーケティング戦略や営業戦略において重要な考え方のひとつとして知られています。
- 認知:対象ユーザーの初期段階で「潜在顧客層」とも呼ばれます。
- 興味・関心:自社製品に興味関心がある「見込み客層(リード)」です。
- 比較・検討:他社との比較検討段階です。購買にもっとも近しい見込み客(ホットリード)
一般的には、上記のフェーズを経て「購買」へと移ります。また、フェーズが進むほどユーザーの数は少なくなります。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルとは、購買後の行動に着目したモデルです。ゴールは「顧客による自発的な製品の情報発信」。インターネットやSNSの普及によって、今やレビュー・口コミが業績に与える影響は無視できなくなっています。そのため、新規顧客の獲得には「顧客心理の深い理解」「製品購入によるメリットと購入後のフォローを合わせた訴求」が不可欠となっています。
インフルエンスファネルは顧客が主役になるため、顧客が顧客を呼んでフェーズごとに数が増えていきます。
ただし、コンテンツのインパクトやタレントの起用などによる半ば強制的な評判形成は、購買タイミングと無関係になりやすいため注意が必要です。ニーズと乖離したイメージ先行の認知拡大は成約につながらないため、現実に即したマーケティング施策を展開する必要もあります。
ダブルファネル
ダブルファネルは、パーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせたモデルです。顧客行動を多面的に分析できます。
パーチェスファネルを構成するマーケティング手法は、購買プロセスが多様化した現代において欠かせない概念です。マスマーケティングの効力は小さくなっていますが、その影響力は無視できるレベルではありません。また、ECや通販の市場拡大によってダイレクトマーケティングの重要性も高まっています。
いずれにしても「顧客が主役のインフルエンスファネル」と「企業視点のパーチェスファネル」は対立しないということになります。重視すべきは、両ファネルの相乗効果(ダブルファネル効果)を生み出す統合的なマーケティング戦略です。
デジタルマーケティングファネルの構築方法
ここからは、デジタルマーケティングファネルを構築する手順を詳しく見ていきましょう。
ペルソナを設定する
まずは、対象となるユーザーの顧客像を設定します。漠然としたターゲットではなく、顧客像を言語化した「ペルソナ」のレベルにまで落とし込みましょう。
デジタルマーケティングファネルを構築する際のペルソナには、以下のような情報も盛り込みたいところです。
- 基本的なプロフィール
- ライフスタイル
- 長期的なゴール
- 製品によって解決したいこと
- 日常の購買スタイル
- 製品の使い方
- 類似製品を使った際の経験
ペルソナの設定方法については、以下の記事でより詳しく解説しています。
行動をシナリオ化する
次に、カスタマージャーニーマップでペルソナの行動をシナリオ化していきます。カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品やサービスを購入するまでの体験を可視化したものです。
ファネルはフェーズごとの人数の推移を可視化しますが、カスタマージャーニーマップは各フェーズの心理や行動を具体的に表します。顧客とのタッチポイントを明示できる点も特徴です。
カスタマージャーニーマップのおおまかな作成手順は、以下のようになります。
- 設定したペルソナの購買プロセスを定義する
- ペルソナの行動とタッチポイントを検討する
- ペルソナの感情を整理する
- 対応策を設定する
カスタマージャーニーマップの作成方法については、以下の記事でより詳しく解説しています。
ファネルを構築する
カスタマージャーニーマップを作成したら、5つの段階を意識しながらファネルを構築していきます。
プロモーション
プロモーションは「認知や興味・関心」の段階です。この段階では、認知拡大とペルソナとの接触度向上を狙います。活用に適した媒体は設定したペルソナによって異なりますが、検索エンジンやSNS、ブログ記事などが考えられるでしょう。
アクイジョン
アクイジョンには「取得」や「獲得」といった意味があります。新規顧客を獲得する段階です。具体的には資料請求や問い合わせフォーム、メールやLINEといったコミュニケーションツールの活用などが考えられます。
コンバージョン
コンバージョンは、デジタルマーケティングにおける「成果」の段階です。最終目的によっても変わりますが、実店舗への来店や製品の購入などが該当します。コンバージョンは施策の評価に欠かせないため、客観的に計測できる対象を選択しましょう。
リテンション
リテンションには「維持」や「保持」という意味があります。デジタルマーケティングにおいては、顧客との関係を維持する段階です。製品の購入後も、ポイントカードや会員限定割引などの施策を展開して継続利用を促します。
インフルエンス
インフルエンスは、既存顧客に自社製品のレビューや口コミをしてもらい、各フェーズの「底上げ」を狙う段階です。この段階は顧客の自発性が原点となるため、顧客体験の向上を主軸とした戦略が基本になります。
計測と分析を行う
構築したファネルによって問題点や展開すべき施策は明確になりますが、それぞれを個別に運用するのではなく、全体を包括した最終目標「KGI(Key Goal Indicator)」を設定して、統一感のあるシナリオをデザインする必要があります。これを実現できなければ「ダブルファネル効果」は期待できないため注意しましょう。
さらに、KGI達成に向けたプロセスが適切であるかどうかを測る重要業績評価指標「KPI(Key Performance Indicator)」を設定し、全体の流れを最適化します。
分析の基本となる主なKPIは、下表のとおりです。
ページビュー(PV) | Webサイトの閲覧数 |
クリック率(CTR) | クリック数 ÷ 表示回数 |
コンバージョン率(CVR) | コンバージョン数÷セッション数×100(%) |
顧客獲得コスト(CAC) | マーケティング総費用÷新規顧客獲得数 |
顧客生涯価値(LTV) | 購買単価×購買頻度×契約継続期間 |
顧客維持コスト(CRC) | (顧客サポートコスト+顧客維持活動費+インフラコスト)÷維持された顧客数 |
インプレッション数 | 広告が表示された回数 |
PDCAを回して改善する
PDCAサイクルとは、Plan-Do-Check-Actの頭文字をとった管理サイクルです。PDCAサイクルを繰り返すことによって、効率的な業務プロセスの確立やコスト削減が実現します。
サイクルを回す頻度は施策によって異なりますが、展開当初は3ヶ月に1回程度から始めてみるといいでしょう。
デジタルマーケティングファネルの活用方法
マーケティングファネルを活用して定量的な分析を行えば、施策を注力すべきフェーズが明確になります。
たとえば、認知フェーズのユーザー数に対して購入件数が極端に少ない場合は「興味・関心」や「比較・検討」における離脱が予想されます。
改善策としては、インサイドセールスやリターゲティング広告などを活用したナーチャリングが考えられるでしょう。認知から購入までのユーザー数に変化がない場合は、ファネル初期の認知拡大施策に注力すべきです。
デジタルマーケティングファネルは古いのか?
デジタルマーケティングファネルの考え方は古いとはいえませんが、近年の複雑化・多様化した購買行動に適さないケースもあります。現代のユーザーにマッチしたマーケティングを展開するには、新しく確立されたフレームワークの活用を検討する必要もあるでしょう。
とくに、BtoCは従来の概念が通用しなくなりつつあります。たとえば、ECサイトで気に入った商品を見つけたときに、ナーチャリング過程を飛ばして購入するユーザーは少なくありません。商品価格が安価であるほどこの傾向は顕著です。製品の種類によっては、ナーチャリングよりもブランディングが重要になることもあります。
一方、BtoBはタッチポイントに変化は見られますが、全体の流れに大きな違いはありません。高額な製品価格と決裁権者の存在という大きな要素が変わらない限り、今後もマーケティングファネルの概念を適用できると考えられます。
【まとめ】デジタルマーケティングファネルを活用して成約率向上を目指そう
デジタルマーケティングファネルは、顧客の購買プロセスを段階的に捉え、効果的な施策を展開するためのフレームワークです。
効果的なターゲティングやパーソナライズドコミュニケーションを実現できれば、顧客満足度と成約率の向上が期待できます。ファネルを構築するだけではなく、適切な戦略の策定やデータ分析による改善なども行って、成果の最大化を目指しましょう。