ビジネスの現場でよく口にされる営業手法に「インバウンドセールス」があります。似た言葉に「アウトバウンドセールス」もありますが、言葉の響きは似ていても営業手法としての意味や性質は真逆のものです。
この記事では、インバウンドセールスの意味や実施のメリット・デメリット、施策を選択するまでの流れをまとめて解説します。正しい意味や効果を理解し、自社の営業活動に生かしましょう。
目次
インバウンドセールスとは何か?
インバウンドセールスとは、自社から情報やコンテンツを発信し、見込み顧客(リード)からの問い合わせを集める営業手法です。見込み顧客にとって購買意欲を高める情報を伝えて、商品・サービスへの理解度を高め、問い合わせを獲得していきます。見込み顧客の購買意欲を引き出すことから「プル型営業」とも呼ばれます。
類似する言葉に「インバウンドマーケティング」があります。見込み顧客からの問い合わせを集めるマーケティング手法を意味する言葉で、マーケティング手法までを意味に含むか、含まないかの違いはあるものの、ほぼ同じ概念の言葉と捉えて問題ありません。
見込み顧客からの問い合わせを得るには、顧客の視点に立って情報を届けることが重要です。このような性質から、インバウンドセールスは受け取る側にとって押し付けがましくない営業手法であることが利点です。
アウトバウンドセールスとの違い
アウトバウンドセールスは自社から見込み顧客に対して直接営業を仕掛けるものです。自社から見込み顧客に対して積極的に働きかけることから「プッシュ型営業」とも呼ばれます。訪問営業や電話による営業(テレアポ)などが一例で、インバウンドセールスと真逆の営業手法といえます。
アウトバウンドマーケティングは、インターネットの普及が進んでいなかった昔は主流の営業手法でした。しかし現在は、見込み顧客がサービスや商品を比較・検討するための情報があふれています。見込み顧客のニーズを無視したアウトバウンドセールスは迷惑と感じられ、企業の印象を悪化させるリスクがあるのです。
アウトバウンドセールスでは、無理に商品やサービスを売ろうとせず、顧客に寄り添ったコミュニケーションを意識することが大切です。
インバウンドセールスのメリット

見込み顧客の購買意欲を高め、問い合わせにつなげるインバウンドセールスにはどのようなメリットがあるのでしょうか。コスト、質、労力の観点からお伝えします。
営業コストを削減できる
アウトバウンドセールスは自社から見込み顧客に対し直接的にアクションをとるため、見込み顧客の購買意欲がどの程度であるのか、把握できないまま営業をかけなければならないのがデメリットです。
一方でインバウンドセールスは、一定以上の購買ニーズがすでに醸成されている顧客のみに営業をします。自社に問い合わせをした時点で、商品やサービスに興味があることが分かり、その後の営業が進めやすくなるのです。
テレアポやメールなど、アウトバウンドセールスで顧客先に訪問営業しても、話を聞いてもらえなければ多くの時間をロスしてしまいます。
インバウンドセールスは、顧客のヒアリングまでにかかるコストを抑え、高い確率でクロージングに導いてくれます。
見込み顧客の質を均一化しやすい
インバウンドセールスでは、自社商品の特徴やメリット・デメリット、価格の相場感を事前に伝え、商談時のミスマッチを防ぐことができるのも利点です。
営業では「ようやく話ができた見込み顧客の商品理解が乏しく、期待値のズレによりクロージングできなかった」といったような無駄を避けなければなりません。
しかしアウトバウンドセールスでは自社から声をかけるため、顧客とのコミュニケーションに時間を割いたとしても未成約に終わる確率が下がりづらいのが難点です。
インバウンドセールスでは、見込み顧客に向けて発信するWeb記事やホワイトペーパーを通してサービス・商品への期待感を高め、一定以上の動機を持つ顧客とマッチングすることができます。
営業担当者の精神的な負担を抑えられる
インバウンドセールスには、従業員の精神的負担を軽減する効果があります。
アウトバウンドセールスは言わば「飛び込み営業」のようなスタイルです。「見込み顧客に相手にされない」「話を聞いてもらえない」「迷惑がられる」というケースはよくあり、精神面に負担がかかります。
事前に営業先を丁寧にスクリーニングしても成約まで進めず断られ、成約に至らないことはざらにあります。これはアウトバウンドセールスが、営業して回る数の多さを生かして成約数を増やす性質の手法であるためです。
ひたすらテレアポ営業を繰り返すような業務は、営業担当者の向き不向きが分かれます。なかには見込み顧客に断られ続けて、精神面で疲弊してしまう営業担当者もいることでしょう。
一方でインバウンドセールスは、見込み顧客からの問い合わせを起点とするため、営業をかけようとして顧客に不満を与えてしまうリスクが軽減されるのがメリットです。顧客が営業担当者にストレスを与える可能性も減ると考えられます。
インバウンドセールスのデメリット
では逆に、インバウンドセールスにはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
営業担当者のテキストコミュニケーション能力が問われる
インバウンドセールスでは、基本的に自社商品の魅力や潜在ニーズを掘り起こすコンテンツをテキスト(文章)で伝えなければなりません。最近ではYouTubeをはじめとした動画プラットフォームで情報を伝えるケースも増えていますが、いずれにせよ高いコミュニケーション能力が問われます。
アウトバウンドセールスは成約率こそ低いものの、営業する数が重視され「どれだけ多くの顧客に営業できるか」が大事になってきます。一方でインバウンドセールスは見込み顧客に対して丁寧にコミュニケーションをとる必要があり、営業担当者の向き不向きが分かれやすいのがデメリットと考えられます。
施策によっては専門的なマーケティングスキルも必要となる
インバウンドセールスでどの手法を採用するかにもよりますが、例えば自社メディアのSEO記事を通して認知を広げようとする場合、文章の質が高かったとしても期待する成果は得られません。
もちろん文章力があるに越したことはありませんが、成果を出すにはサイトの内部施策やキーワード選定・検索エンジンに適した記事構成を考えることが必要不可欠です。
そのほか、サイト内でダウンロードできるホワイトペーパーを作り、メールマガジンを配信するなどの手段がありますが、導線を作りクリック率・配信時間の目標を立て、達成するためには専門的なマーケティングスキルが必要です。
営業担当者は、インバウンドセールスの施策に応じてスキルをキャッチアップする姿勢を持っていなければ成果を出しにくいでしょう。
インバウンドセールスの主な手法
インバウンドセールスの目的は見込み顧客からの問い合わせ獲得(リード獲得)です。具体的には、認知拡大を目的とした施策や、真っ先に思い浮かぶブランドを意味する「第一想起」を獲得するための施策をとります。主なインバウンドセールスの手法として、以下の5つが挙げられます。
- WebサイトのSEO施策
- メールマガジンの配信
- ホワイトペーパーの設置
- プレスリリースの配信
- オフライン/オンラインセミナーの開催
インバウンドセールスの戦略決定までの流れ

では、自社商品に合う手法はどうすれば分かるのでしょうか。ここでは、インバウンドセールスの戦略を決めるまでの流れを説明します。
そもそも「戦略」とは、限られた資源(予算や人員)を何に投資するか決めること。もう少しかみ砕くと、どのインバウンドセールスの施策にどれくらい資源を投資するかを決めることです。
ここから説明する内容はマーケティング戦略を立てる際の汎用的な考え方であり、インバウンドセールスに限った話ではありませんが、インバウンドセールスにおいても大いに有効なものです。
1. ターゲット(WHO)を見極める
マーケティングの戦略立案では、最初にWHO(誰)にあたるターゲットを設定します。自社商品を売り込む「戦略ターゲット」の顧客と、戦略ターゲットのなかでも、特に資源を集中させる「コアターゲット」の顧客に分けて絞り込みます。
コアターゲットの絞り方には正解はありません。ひとつの案として、以下の切り口を参考にコアターゲットを決めましょう。
切り口 | 詳細 |
ペネトレーション | 自社商品の市場内浸透率(普及具合)を増やせるグループはどこかを考える |
ロイヤリティ | 既存顧客のなかで同一カテゴリー内における自社商品のシェアを増やせるグループはどこかを考える |
コンサプション | 既存顧客のなかで1回あたりの消費量を増やせるグループはどこかを考える |
システム | 既存顧客のなかでクロスセル・アップセルが見込めるグループはどこかを考える |
パーチェスサイクル | 既存顧客のなかで購入頻度を上げられるグループはどこかを考える |
ブランド・スイッチ | 競合商品の顧客が自社商品を導入する可能性の高いグループはどこかを考える |
2. どんな情報(WHAT)を届けるか決める
インバウンドセールスのコアターゲットが明確になったら、次はWHAT(何)にあたる「届けるべき情報」を設定します。見込み顧客が抱える課題の本質を探り、何を基準にすれば自社商品が選定されるのか仮説を立てます。
見込み顧客の欲求を探る際は、顧客がそもそも何に価値を感じて商品を選んでいるかを洞察します。この分析が不十分だと、ターゲットが購買欲求を高めるまでのコミュニケーションに至らず、問い合わせにつながらなくなります。
3. 各施策(HOW)と予算配分を決める
最後に、見込み顧客への情報の伝え方を意味する具体的な施策(HOW)を決めます。インサイドセールスの具体的な施策を再掲します。
- WebサイトのSEO施策
- メールマガジンの配信
- ホワイトペーパーの設置
- プレスリリースの配信
- オフライン/オンラインセミナーの開催
施策はコアターゲットの属性や届けるべき情報、インサイドセールスに割くことができる予算や担当者のスキルセットなどをもとに選択します。特に記事前半で説明したように、ターゲット(WHO)を見極めること、どのような情報(WHAT)を届けるか決めることは重要です。
例えば、ネット検索をあまりしないシニア層向け商材を売り込もうと、SEO施策に注力するのは効果が薄く、避けなければなりません。
インサイドセールスの成果は上流からの設計が左右する
記事では、インサイドセールスの意味やアウトバウンドセールスとの違い、メリット・デメリットや戦略決定までの流れを説明してきました。
インサイドセールスの世界では、やみくもにアクションしても成果にはつながりません。深い顧客理解とニーズの理解、そして各施策の性質を理解しているかが成果を大きく左右します。施策を動かす営業担当者は日々マーケットの理解を深めるとともに、不足したスキルセットのキャッチアップに努めつつ、適宜、外部のプロフェッショナルの力を借りる意識が重要です。
2005年よりSEOに従事、年間3000本以上のSEOコンテンツを制作しているシンプリックコンテンツマーケティング事業部の監修記事です。